心理学者 / positive

マーティン・セリグマン

マーティン・セリグマン

アメリカ合衆国 1942-08-12

アメリカの心理学者(1942-)。1967年に犬の電気ショック実験から学習性無力感を発見し、うつ病の認知理論を提示した。1998年APA会長就任を機に病理ではなく強みを科学する「ポジティブ心理学」を創始、PERMAモデルで大衆的影響力を得た。一方でCIA強化尋問プログラム関与が告発され、業績評価は今も論争中である。

この人から学べること

セリグマンの理論は現代の個人投資家・起業家・組織人事に直結する道具になる。第一に学習性無力感の帰属理論版は、相場急落や事業失敗の後に「永続的・全般的・個人的」と原因を解釈する人ほど次の行動を起こせなくなることを示す。下落局面を「一時的・特定的・市場要因」と帰属し直す「ABC技法」は、長期投資家の継続率を実証的に改善する。第二にPERMAモデルは報酬設計の限界を可視化する。給与(Positive emotion)だけ最適化しても、Engagement(没頭)・Meaning(意義)・Relationships(関係)・Achievement(達成)を欠く職場は離職率が上がる。Googleのプロジェクト・アリストテレスやNetflix流文化設計の根拠もここにある。第三にCIA関与論争は、有効性が認められた心理学理論ほど軍事・尋問への流用リスクを抱えるという教訓を残した。投資家にとっては「強力なフレームワークほど用途を選ばねば自分を蝕む」という認識フレームとして応用できる。

心に響く言葉

学習性無力感とは、何をしても結果は変わらないという信念から生じる、諦めの反応であり、放棄の応答である。

Learned helplessness is the giving-up reaction, the quitting response that follows from the belief that whatever you do doesn't matter.

楽観主義は意義ある人生にとってかけがえのないものだ。前向きな未来への確固たる信念があれば、自分より大きな何かに身を投じることができる。

Optimism is invaluable for the meaningful life. With a firm belief in a positive future, you can throw yourself into the service of that which is larger than you are.

ウェルビーイングは自分の頭の中だけには存在しない。それは良い気分と、実際の意味、良き関係、達成を兼ね備えたものである。

Well-being cannot exist just in your own head; well-being is a combination of feeling good as well as actually having meaning, good relationships and accomplishment.

悲観主義者の決定的特徴は、悪い出来事は長く続き、自分のあらゆる活動を蝕み、しかもそれは自分のせいだと信じる傾向にある。

The defining characteristic of pessimists is that they tend to believe bad events will last a long time, will undermine everything they do, and are their own fault.

良き生とは、人生の主要な領域で自分の代表的強みを日々用いることで幸福を引き出すことに尽きる。

The good life consists in deriving happiness by using your signature strengths every day in the main realms of living.

生涯と功績

マーティン・E・P・セリグマンは1942年8月12日、ニューヨーク州アルバニーのユダヤ系家庭に生まれた。父は公務員、母は教師という家庭環境で公立校とオールバニ・アカデミーを経て、1964年プリンストン大学を哲学専攻・最優等で卒業、1967年にペンシルベニア大学で心理学博士号を取得した。哲学者として始まった彼の知的経歴は、生涯にわたって心理学に哲学的問いを持ち込む姿勢を生み、晩年にアリストテレスのエウダイモニア(善き生)概念と幸福研究を接続する素地となった。

1967年、博士課程在籍中にスティーブン・マイヤーとブルース・オーバーミアと共に実施した犬への古典的条件づけ実験で、彼は偶発的に「学習性無力感」と呼ばれることになる現象を発見する。逃れられない電気ショックを反復経験した犬は、後に回避が可能な条件下に置かれてもなお行動を起こさず、ただ受動的に苦痛に耐え続けた。セリグマンはこの行動様式をヒトのうつ病と並行的に捉え、「統制不能性の知覚」が抑うつを生むとする学習性無力感理論を提唱した(1975年『Helplessness』)。1978年にはリン・エイブラムソンらと共に同理論を改訂し、原因帰属様式(永続的・全般的・個人的か否か)が無力感の発生を左右するという帰属理論版を提示、現代の認知行動療法とポジティブ心理学の理論基盤を築いた。

1990年代後半、娘ニッキーとの庭仕事中の対話を契機に、心理学が「何が壊れているか」ばかりを研究してきたことへの自省を深めた。1998年米国心理学会(APA)会長に就任すると就任演説で「ポジティブ心理学」を正式宣言し、強み・徳・最適経験・繁栄の科学を標榜した。クリストファー・ピーターソンと共著の『Character Strengths and Virtues』(2004)はDSMの「正の対概念」を意図し、6徳目24強みの分類体系を提示。2011年の『Flourish』では幸福を5要素(Positive emotion、Engagement、Relationships、Meaning、Achievement=PERMA)に分解し、測定可能なウェルビーイング科学を主張した。ペン大学にPositive Psychology Centerと修士課程MAPPを創設し、世界各地に同分野の研究拠点を生んだ。

光と影は表裏一体である。2002年以降、彼の学習性無力感理論はジェームズ・ミッチェルとブルース・ジェッセンによってCIA「強化尋問プログラム」(EITs)の理論的基礎として転用された。彼自身は拷問への直接協力を否定するが、2002年にネバダ州SERE校で同人らに講演を行ったこと、APAから少なくとも19万ドルを得たことが2014年のSenate Torture Reportおよび2015年のHoffman Report(APA独立調査)で明らかとなり、米国心理学会員から公開抗議書簡が出る事態となった。本人は『The Hope Circuit』(2018)で経緯と反省を綴ったが、心理学倫理の主要論題として今も未決着である。米軍のComprehensive Soldier Fitnessプログラム(2009-)では彼のレジリエンス訓練が全兵士向けに展開され、エビデンスの十分性をめぐる議論も継続している。私生活ではブリッジの強豪で1998年北米ブルーリボン・ペア戦準優勝、家庭では7児の父として子の半数をホームスクーリングで育てた。

専門家としての評価

セリグマンは20世紀後半に学習性無力感の発見でうつ病の認知モデルを提供し、1998年APA会長就任を機にポジティブ心理学という新分野を制度化した。PERMAモデルとVIA強み分類は、教育・組織開発・コーチング・ヘルスケアの各業界に直接の方法論を供給した点で実践的影響が極めて大きい。一方でCIA強化尋問プログラム関与論争は、心理学の応用倫理における未決の重大問題として現在も学界の議論対象に残響している。

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よくある質問

マーティン・セリグマンとは?
アメリカの心理学者(1942-)。1967年に犬の電気ショック実験から学習性無力感を発見し、うつ病の認知理論を提示した。1998年APA会長就任を機に病理ではなく強みを科学する「ポジティブ心理学」を創始、PERMAモデルで大衆的影響力を得た。一方でCIA強化尋問プログラム関与が告発され、業績評価は今も論争中である。
マーティン・セリグマンの有名な名言は?
マーティン・セリグマンの代表的な名言として、次の言葉があります:"学習性無力感とは、何をしても結果は変わらないという信念から生じる、諦めの反応であり、放棄の応答である。"
マーティン・セリグマンから何を学べるか?
セリグマンの理論は現代の個人投資家・起業家・組織人事に直結する道具になる。第一に学習性無力感の帰属理論版は、相場急落や事業失敗の後に「永続的・全般的・個人的」と原因を解釈する人ほど次の行動を起こせなくなることを示す。下落局面を「一時的・特定的・市場要因」と帰属し直す「ABC技法」は、長期投資家の継続率を実証的に改善する。第二にPERMAモデルは報酬設計の限界を可視化する。給与(Positive emotion)だけ最適化しても、Engagement(没頭)・Meaning(意義)・Relationships(関係)・Achievement(達成)を欠く職場は離職率が上がる。Googleのプロジェクト・アリストテレスやNetflix流文化設計の根拠もここにある。第三にCIA関与論争は、有効性が認められた心理学理論ほど軍事・尋問への流用リスクを抱えるという教訓を残した。投資家にとっては「強力なフレームワークほど用途を選ばねば自分を蝕む」という認識フレームとして応用できる。