心理学者 / psychoanalysis

メラニー・クライン

メラニー・クライン

イギリス 1882-03-30 ~ 1960-09-22

オーストリア生まれの英国の精神分析家(1882-1960)。ウィーンの裕福なユダヤ系家庭に生まれ、フェレンツィの分析を経て児童精神分析の道を開いた。玩具を用いる「遊戯療法」を発明し、対象関係論の主要創始者となった。妄想分裂ポジション・抑うつポジション・投影同一視・羨望と感謝など独自の概念群を打ち立てた一方、アンナ・フロイトとの「論争的討論」(1941-45)で英国精神分析学会を分裂させた。

この人から学べること

クラインの「妄想分裂ポジション」と「抑うつポジション」の二項対立は、現代の組織論・リーダーシップ論に深い示唆を与える。買収統合の混乱期や経営危機の最中、組織は容易に「我々vs彼ら」「善vs悪」へと分裂(splitting)し、責任を他部署や前経営陣に投影する。これは妄想分裂的防衛そのものである。成熟したリーダーは、自組織の問題を他責せず両義性を引き受ける「抑うつポジション」へ移行する能力を必要とする。投資判断においても羨望と感謝の区別は実践的である—ライバル投資家の成功を「奪い去り台無しにしたい」羨望に駆られると判断は歪み、自らの持つ知見・資本・時間軸への感謝に立脚すれば長期投資が成立する。

心に響く言葉

羨望とは、他者が望ましいものを所有し享受していることに対する怒りの感情であり、その衝動はそれを奪い去るか、または台無しにすることに向かう。

Envy is the angry feeling that another person possesses and enjoys something desirable—the envious impulse being to take it away or to spoil it.

感謝の感情は、良い経験を十分に享受することから生まれる。感謝は羨望を和らげる—感謝するとき、人は他者の持つものではなく、自分が持つものの価値を理解できるからである。

The feeling of gratitude arises from the full satisfaction of a good experience. Gratitude mitigates the feeling of envy because when we are grateful, we understand the value of what we possess rather than focusing on what others have.

子どもの遊びを分析してわかったのは、遊びには多くの機能があるということだ。遊びは空想・願望・実際の体験を、象徴的なやり方で表現する。

The analysis of children's play has shown me that play has many functions. It expresses phantasies, wishes, and actual experiences in a symbolic way.

愛と憎しみは乳児の心の中で闘争している。そしてその闘争はある程度生涯を通じて持続し、人間関係における危険の源となりやすい。

Love and hatred are struggling together in the baby's mind; and this struggle to a certain extent persists throughout life and is liable to become a source of danger in human relationships.

生涯と功績

メラニー・クライン(旧姓ライツェス)は1882年3月30日、オーストリア=ハンガリー帝国ウィーンのユダヤ系家庭に四人姉妹弟の末子として生まれた。父モーリッツは医師、母リブッサはスロバキアのラビ家系出身で、家庭は知的だが情緒的には複雑だった。彼女は医学部進学を志したが家計悪化で断念し、21歳で工業化学者アルトゥール・クラインと結婚、3児(メリッタ、ハンス、エーリッヒ)をもうけた。結婚生活は不幸で、出産後の抑うつから1910年にブダペストでサーンドル・フェレンツィの分析を受け、これが精神分析家としての出発点となる。

1919年、息子エーリッヒの観察に基づく症例論文をハンガリー精神分析学会で発表し会員に推挙された。1921年からはベルリン精神分析研究所でカール・アーブラハムの分析と教えを受け、児童分析の独自技法を磨いた。彼女が編み出した「遊戯療法(Play Technique)」は、玩具・人形・粘土・紙と鉛筆など子どもの遊びそのものを成人の自由連想や夢に等価な無意識素材として解釈する画期的な技法で、2歳児の分析を可能にした。1926年にアーネスト・ジョーンズの招きでロンドンへ移住し、英国精神分析学会の中核となる。

理論面でクラインはフロイトの死の欲動概念を文字通り受け取り、新生児期から無意識的攻撃性と不安が活動していると主張した。彼女が提示した「妄想分裂ポジション」は、乳児が母親を「良い乳房」と「悪い乳房」に分裂(splitting)させ、迫害不安に対し投影同一視(projective identification)で対処する生後数か月の心的体制を指す。続く「抑うつポジション」は、生後6か月頃に良い対象と悪い対象が同一人物だと統合され、自らの破壊衝動への罪悪感と償いの願望が出現する段階である。1957年の最終主著『嫉妬と感謝』では、原始的羨望(envy)を死の欲動の最初期の表出と位置づけ、感謝の能力こそが内的良性対象を維持する基盤と論じた。

しかし功績の影には深刻な軋轢もあった。1938年ナチスの脅威で亡命してきたアンナ・フロイトとロンドンで合流すると、児童分析の理論と実践をめぐる対立が激化する。クラインは遊びを自由連想と等価とみなし誕生時から超自我が存在すると主張、アンナ側は適切な自我発達段階までは教育的介入が必要と主張した。1941-1945年に英国精神分析学会で開催された「論争的討論(Controversial Discussions)」は、学会を分裂寸前まで追い込み、最終的にクライン派・アンナ・フロイト派・独立派(中間派)の3つの並行訓練プログラムを設ける妥協で決着した。私生活でも長女メリッタが精神分析家エドワード・グローヴァーと組んで母を公然と批判し、クラインは娘の葬儀にも参列を拒まれるという亀裂を抱えた。さらに1934年に登山事故で死去した次男ハンスについて、1988年の戯曲『Mrs Klein』は自殺説を示唆し、クラインが自分の子ども3人全員を分析対象にした事実(現代倫理では二重関係として不可)も後年の批判対象となった。

クラインは1960年9月22日、結腸癌手術後の合併症でロンドンにて死去した。彼女が遺した対象関係論はウィルフレッド・ビオン、ドナルド・ウィニコット、ハンナ・シーガル、ハーバート・ローゼンフェルトらを通じて英国精神分析の主流となり、現代の境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の臨床、組織心理学、社会理論、ジュリア・クリステヴァらの現代思想にまで影響を広げた。ジャック・ラカンやドゥルーズ&ガタリは彼女のエディプス主体的解釈を批判しつつも、部分対象や投影同一視の概念は積極的に参照した。創始者の権威を激しく主張し追随者に忠誠を求めた独断性、家族関係の悲劇、そして乳児の無意識への踏み込んだ洞察—これらが分かちがたく絡み合った、20世紀精神分析の最も論争的な巨人である。

専門家としての評価

20世紀精神分析の最重要かつ最論争的人物の一人。フロイトの死の欲動概念を文字通り発展させ、乳児の前言語的攻撃性と原始的防衛機制を理論化した点で独自性は揺るがない。遊戯療法の発明は児童心理療法の礎となり、対象関係論はビオン、ウィニコット、コフートらを経て現代精神分析の主流となった。一方でアンナ・フロイトとの論争で英国学会を分裂させ、自身の3人の子全員を分析対象とした倫理問題、長女メリッタとの不和、追随者への忠誠要求など、創始者の独断性が功罪両面で際立つ。

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よくある質問

メラニー・クラインとは?
オーストリア生まれの英国の精神分析家(1882-1960)。ウィーンの裕福なユダヤ系家庭に生まれ、フェレンツィの分析を経て児童精神分析の道を開いた。玩具を用いる「遊戯療法」を発明し、対象関係論の主要創始者となった。妄想分裂ポジション・抑うつポジション・投影同一視・羨望と感謝など独自の概念群を打ち立てた一方、アンナ・フロイトとの「論争的討論」(1941-45)で英国精神分析学会を分裂させた。
メラニー・クラインの有名な名言は?
メラニー・クラインの代表的な名言として、次の言葉があります:"羨望とは、他者が望ましいものを所有し享受していることに対する怒りの感情であり、その衝動はそれを奪い去るか、または台無しにすることに向かう。"
メラニー・クラインから何を学べるか?
クラインの「妄想分裂ポジション」と「抑うつポジション」の二項対立は、現代の組織論・リーダーシップ論に深い示唆を与える。買収統合の混乱期や経営危機の最中、組織は容易に「我々vs彼ら」「善vs悪」へと分裂(splitting)し、責任を他部署や前経営陣に投影する。これは妄想分裂的防衛そのものである。成熟したリーダーは、自組織の問題を他責せず両義性を引き受ける「抑うつポジション」へ移行する能力を必要とする。投資判断においても羨望と感謝の区別は実践的である—ライバル投資家の成功を「奪い去り台無しにしたい」羨望に駆られると判断は歪み、自らの持つ知見・資本・時間軸への感謝に立脚すれば長期投資が成立する。