心理学者 / cognitive

ロバート・スタンバーク
アメリカ合衆国 1949-12-08
アメリカの心理学者(1949-)。コーネル大学教授。知能三項理論(分析的・創造的・実用的)と愛の三角理論(情熱・親密・コミットメント)で知られ、APA会長も務めた。20世紀被引用上位60位。一方、2018年に英国心理学会調査で自己引用率42-65%を指摘されPerspectives誌編集長を辞任、複数論文の撤回・複製問題に発展。功罪が同時並行で語られる存命の心理測定学者。
この人から学べること
スタンバーグの三項理論は採用・投資・自己開発に明快な実装指針を与える。第一に採用設計では、コーディングテストや適性検査(=分析的知能)だけでなく、未経験課題への即興対処(創造的)・実務シミュレーション(実用的)を組み合わせるべきだ。GoogleがGPAと標準化テストの予測力が低いと公表し、ストラクチャード行動面接へ移行したのは三項理論の実践例である。第二に投資判断において、創業者を分析的指標(学歴・GPA)で篩い分けると、市場のパラダイム転換に必要な創造的・実用的知能を見落とす。Y CombinatorがGPAより「Ramen profitable」の実行力を重視する選別は本理論と整合する。第三に倫理面での注意点として、スタンバーグ自身の2018年自己引用問題は、卓越した知能と倫理判断は別物だという反面教師の教訓である。
心に響く言葉
成功する知能とは、重要な目標を達成するために用いられる知能である。成功する人とは、自分自身の基準で測ろうと他人の基準で測ろうと、知的スキルの全領域を獲得し、発達させ、応用することに成功した人々であって、学校がそれほど重視する「不活発な知能」に依存している人々ではない。
Successful intelligence is the kind of intelligence used to achieve important goals. People who succeed, whether by their own standards or by other people's, are those who have managed to acquire, develop, and apply a full range of intellectual skills, rather than relying on the inert intelligence that schools so value.
知能検査とは、知能という構成概念の便宜的・部分的な操作化にすぎず、それ以上のものではない。巻尺が身長を測るような形での知能測定を、それらが提供しているわけではない。
Intelligence tests are convenient partial operationalizations of the construct of intelligence, and nothing more. They do not provide the kind of measurement of intelligence that tape measures provide of height.
愛は三つの成分から成る。親密さ、情熱、そして決定/コミットメントである。
Love consists of three components: intimacy, passion, and decision/commitment.
創造性は一つの習慣である。問題は、学校がときにそれを悪い習慣として扱うことだ。
Creativity is a habit. The problem is that schools sometimes treat it as a bad habit.
私は自分が苦手なことを研究している。
I study what I stink at.
生涯と功績
ロバート・J・スタンバーグは1949年12月8日、ニュージャージー州のユダヤ系家庭に生まれた。両親はいずれも高校を卒業していなかったが、本人は子ども時代に「テスト不安」に悩まされ、知能検査で本来の能力を発揮できなかった経験から、後年「テストは個人の真の知的能力を測定する適切な手段ではない」という確信を持つに至る。年下の児童に混じって再受験したところスコアが大幅に上がったという原体験から、彼は高校時代に独自の知能検査「Sternberg Test of Mental Ability(STOMA)」を自作している。これが彼の生涯のテーマ「IQという単一指標の限界」の出発点となった。
イェール大学心理学科を最優等で卒業し、1975年スタンフォード大学で博士号を取得。同年イェール大学心理学助教授に着任し、以後30年間イェールにとどまって最終的にIBM心理学・教育学講座教授、能力・適性・専門性研究センター長を務めた。2005年にイェールを離れタフツ大学文理学部長、2010年オクラホマ州立大学プロボスト、2013年ワイオミング大学第24代学長と異例の昇進ルートを歩むが、ワイオミングでは着任後3週間でプロボストを辞任させ、4ヶ月で3名のアソシエイト・プロボストと4名の学部長を辞任に追い込むなど摩擦が続出。「カレッジの混沌」と地元紙に報じられ、137日目に自ら辞任して退職金37万7千ドルを受け取った。同年末、コーネル大学人間発達学部に研究教授として着任、現在に至る。
学術的中核は1985年の『Beyond IQ』で提示した「知能三項理論」である。彼は知能を三つの相補的成分に分解した。①分析的知能(Analytical):従来のIQが測定する学校・テスト型問題解決能力、②創造的知能(Creative/Synthetic):新規・異常な状況に既存の知識を転用する能力、③実用的知能(Practical):日常生活への適応、暗黙知の活用、環境形成能力。1996年の『Successful Intelligence(成功する知能)』では「人生で成功する人は三つを状況に応じて使い分けている」と論じ、教育評価への応用を提唱、タフツ大学では2007年から創造性・実用知能・倫理判断を測る実験的入学選考を導入した。並行して1986年に「愛の三角理論」を発表し、愛は「情熱(passion)・親密(intimacy)・コミットメント(commitment)」の3軸の組合せで8類型に分類できると示し、消費者研究・カウンセリングで広く参照される枠組みとなった。さらに1988年「心的自治政府(mental self-government)」理論で認知スタイル論を、トッド・ルバートとの「創造性投資理論」(アイデアを安く買い高く売る)も提示するなど、論文数2,000本超・h-index 200超という驚異的生産性を持つ。
しかし2015年Perspectives on Psychological Science編集長就任後、彼は自分自身の論考を査読を経ずに8本同誌に掲載した。2018年にBrendan O'Connorらが調査した結果、これら論考の自己引用率は42-65%に達し、100名以上の心理学者が懸念表明書に署名した。Bobbie Spellmanら複数の研究者がデータ再利用・自己剽窃を指摘、英国心理学会調査(BPS Research Misconduct)に発展し、彼は2018年4月に編集長を任期途中で辞任。複数論文が「重複出版」として撤回された。功績の巨大さと倫理問題が並走する稀有な事例として、心理学コミュニティでは2020年代も議論が続いている。サー・フランシス・ゴルトン賞、グロウマイヤー賞(2018)、13の名誉博士号、APA・APS両学会会長歴任など栄誉も多く、ISIによれば心理学・精神医学被引用ランキング上位0.5%、20世紀被引用心理学者60位とも評される。
専門家としての評価
スタンバーグは20世紀後半~21世紀心理測定学のなかで「IQ単一主義への対抗者」の代表である。ガードナー多重知能理論と並び、知能の多次元化を実証研究のレベルで推進した。同時に2018年BPS自己引用調査・複数論文撤回によって、心理学界の研究公正(research integrity)議論を象徴する人物ともなった。功罪が同時並行で議論される稀有な存命研究者であり、心理学史の倫理事例研究としても参照される。